お盆休み、いかがお過ごしでしょうか。今日は71回目の終戦記念日です。今年はオバマ大統領が広島を訪問してくれたことで、平和の誓いへの思いがよりいっそう期待できる8月になりそうだったのですが、中国軍の尖閣諸島への挑発行為があり、緊張が高まっているのが残念でなりません。
当社は中国の工場から製品を購入しており、また現地で販売活動もしています。まして現地法人では中国人スタッフを雇用しているので日中関係は良好でなければ困ります。また私自身も上海のビジネススクールに通っているので大勢のクラスメイトとも日本と中国は仲良くすべきだといつも話しあっています。ただ、日本人の私と違って彼らは中国共産党に意見を言うことはできません。平和を望むことはできても政治について発言したり運動したりすることができないのです。
私自身は中国共産党員の知人はいませんし、中国軍部の上層部の知り合いもいないので今回の挑発がなぜ起きているのか知る由もありません。ですが、現地の人達と会話していて感じることから、個人的な想像を書かせて頂きたいと思います。
実は中国では日本より、アメリカの悪口を聞くことが多いです。個々には自由の国アメリカに移住する人も多く、国としては憧れている人が多いのですが、米国政府に対しては西側の価値観を押し付けてくるという嫌悪感を強く持っているように感じます。中国からすれば、お膝元のアジアで太平洋の向こうから口を挟まれるのも気分の良い話ではないという気持ちは、日米安保で基地を提供して米軍に守ってもらっている立場上、アメリカに強く言えない日本人から見てわからないことはない気がします。
実はこの雰囲気は実は戦前の日本人がアメリカ、イギリスに持っていた気持ちに近いのではないかと個人的に思っています。日本は明治維新後に驚異的な速さで近代化を成功させ、西洋諸国に植民地化されずに日露戦争にも勝利して列強の仲間入りをしました。それからの日本は、第一次世界大戦後にアメリカ・イギリスから警戒され、軍縮を迫られました。ライオン宰相と言われた当時の濱口首相はギリギリの駆け引きで日本の防衛力を維持しつつ、国際協調のためにロンドン海軍軍縮会議で合意に至りましたが、軍部から猛反発を受けた末に不服とする暴漢に狙撃されて寿命を縮めてしまいました。今の共産党もアメリカに弱腰では同じような目に合う恐れがあると言われています。
その頃、中国はイギリスに香港、ポルトガルにマカオを奪われた上に日本にも攻め込まれるという屈辱を味わっていました。中国には臥薪嘗胆という言葉があります。これは中国古代の呉と越という国の戦争に由来します。呉が越に敗れた時、呉の国王が薪の上で寝ることの痛みで越から受けた屈辱を忘れなかったことが臥薪の意味で、呉に敗れた越の国王が今度は呉を倒そうと肝を嘗めて、その苦さで呉から受けた屈辱を忘れずに復讐を果たしたことに由来します。
中国政府は欧米の列強に支配されてから日本が降伏した1945年8月15日までに受けた屈辱を忘れておらず、臥薪嘗胆の精神で経済発展させ、国力を増強して軍備を拡張しているように感じます。もちろん現在の世界で武力や圧力で領土を広げることは国際法違反です。しかし、過去に違法なやり方で自国を蹂躙された中国からすればアメリカを始め、西側の理屈で定められた現在の領土、現在のルールは本心から納得できる問題ではないのではないでしょうか。もちろん私は現在の国際社会の一員として中国政府が武力に訴えるような行動はとらないでくれることを期待しています。
一方で歴史は何度も同じことを繰り返しています。第一次世界大戦の後で多額の賠償金に苦しんだドイツはヒトラーの愛国心を煽る演説に国民が熱狂して再び戦争に向かいました。中国政府には71年前に傷つけられたプライドを取り戻そうというエネルギーがまだ溜まったままなのかもしれません。
しかし、第2次世界大戦後の世界はアメリカとソ連の冷戦時代には世界大戦のようなことは起きませんでした。アメリカも中国も軍事力ではライバルですが、自国の経済のためにはお互いになくてはならない存在です。71年前の教訓から人類は学んでいると思います。対話によって過去に傷ついたプライドを理解し、相手の面子を損なわないことで戦争を回避できることを信じたいと思います。