日本中が盛り上がった半沢直樹が終わってしまいました。幸い最終回が見応え十分でお腹いっぱいになりましたので半沢ロス状態にはならずに済んでおります。銀行を舞台にして実社会の縮図が凝縮された熱いドラマでしたが、今回は頭取の中野渡に焦点を当ててみたいと思います。
9話で幹事長に証拠を渡して屈服したかに見えた中野渡でしたが、屈辱に耐えて大和田が決定的な証拠を掴むのを待ち、半沢に大逆転勝利の舞台を提供しました。最後のどんでん返しまでの流れは見事としか言いようのない脚本でしたが、中野渡が「さすがトップ」と感じた大きなポイントが2つありました。
一つは「トミさん」旧Tの中野渡が合併後の銀行を一つにまとめるためには旧Tの闇にメスを入れる必要がありました。そこで旧Tの中から優秀で忠誠心熱い富岡を頭取直轄の内偵にするのですが、ポイントは頭取とつながっているということが一切バレないように出向予備軍の部署に10年も配置していたことです。専務や常務は次の頭取レースに向けて派閥をつくって味方を増やそうとします。その際には味方の人数>敵の人数であれば良いので露骨に贔屓をします。しかし、頭取は出世レースをする必要がないので逆に組織を一致団結させる必要があるので贔屓はできません。よって富岡のように出世欲より正義と忠義を優先してくれる部下が必要なのです。もちろん給与面では十分に報いていたと思います。
もう一つのシーンは半沢直樹を呼んで辞令を出すシーンです。出向を命じられると予想していた半沢は辞表を用意して部屋に向かいます。ここで中野渡は半沢に対する自身の思いを初めて口にします。セントラル証券に出向させたのは大和田に対してやり過ぎた結果、半沢に処分を下さなければ大和田派閥を納得させることができなかったこと。数ある出向先の中でも証券の世界を未来の銀行をしょって立つ若手リーダーに体験させたかったことを話しました。
中野渡がもし専務・常務の立場であれば半沢を重宝し右腕としてフル稼働させていたと思います。トップの立場でも伊勢志摩ホテル、帝国航空といった大きな案件を任せていましたが、これらは失敗すれば後がない案件であり、獅子が子を千尋の谷に落とすがごとくなので周囲からは贔屓しているようには見えませんでした。
このことからトップは自分が期待し、信頼している者には甘い顔をするわけにいかず、周囲にはむしろ潰そうとしているのではないかと思われるくらいの態度を取らなければならないのです。私は三代目になりますが、亡くなった父は他のどの社員よりも私に厳しく接し、本当によく怒鳴られました。当時は恨んだ時もありましたが、おかげで古参の社員から甘やかされたボンボンと思われずにすみました。それどころか、「ここ抑えとかないと、また社長に怒られますよ。」と味方になってくれることが多かったです。何より厳しい局面を数多く経験させてもらえたおかげで実力もどんどん着いたと感じています。中野渡のシーンを見てあの時、父もこんな風に考えていたのかなと思うと少し涙腺が緩んでしまいました。
つい個人的感傷に浸ってしまいましたが、このドラマを観てトップに立つ者は親しく近い立場の人間にこそ厳しく接し、遠い立場の人間にこそ温かく優しく振る舞わなければならないと感じました。そうしなければ遠い人は「俺は見放されている」と感じて心がどんどん離れていくからです。専務常務で次を狙っている人たちはレースに勝つまでは敵と味方を区別して良いのですが、トップに立ってからは敵だった人を味方にする努力が求められるのではないでしょうか。