TEDトーク(1)

 早いもので昨年の9月に上海のビジネススクールCEIBSに入学してもう1年が過ぎようとしています。7割が中国人クラスメイトという構成なので授業は英語ですが、アフター5は中国語がメインの会話となり、語学を磨くには絶好の環境です。

 それでも中国語は日常会話はできるのですが、知らない単語が多すぎてまだまだ、議論できるレベルではありません。一方で英語については文法はおかしくても単語の知識量が増えたおかげで、ある程度は政治経済の話まで踏み込んで議論しあうレベルまで達することができました。20ヶ月のEMBAプログラムですので残り8ヶ月、卒業まで頑張り抜きたいと思います。

 今回は、毎月クラスメイトの中から2名か3名の希望者が参加するTEDトークについて書きたいと思います。TEDトークについてはご存知の方が多いとは思いますが、様々な分野の著名人が講演を行い、その様子をYOUTUBEで配信することで世界中の人々のマインドに大きな影響を与えている世界一有名なプレゼンテーションのことです。

 CEIBSでは約50人のクラスメイトの前だけですが、互いに異なるバックグラウンドから知識・経験をシェアしあいレベルアップしていこうという目的で行っています。私は8月の授業で、2回目のTEDトークをすることになりました。クラスメイトは56人いて20ヶ月ですので、本来なら一人が2回することはないはずなのですが、他に立候補がなかったので白羽の矢が立ちました。中国人もこういうところは日本人に似ているのか、人前で話したいと思う人は意外に少ないようです。

 最初は3名の立候補でスタート、翌月は私を含めた3名、そのあとは2名ずつが2ヶ月続いて、今回5ヶ月目は一人しか立候補がなくて誰かいないかということで私が2回目の手をあげることになりました。ほとんどのクラスメイトは自社のビジネスについて説明する人が多かったのですが、私は中国の古典に学んで、実際の経営に役立てようという内容でプレゼンテーションを行いました。

 1回目は日本の中小企業では、どのように社員のモチベーションを上げているのかというテーマでした。日本では一度勤めた会社を辞めるケースは少ないので、特に経営者と従業員が家族のようにつながりを持つ文化が主流です。ただ、この文化は上場して株主から短期利益の追求というプレッシャーを受けて壊れてしまうケースが多々有ります。それでも特に中小企業では、人数が少ないだけに一人一人の戦力が大変貴重であり、経験を積んだ人が退職すると大きな戦力ダウンにつながります。

 ビジネスの世界では、顧客第一主義を抱える会社が多いと思います。ただ、顧客満足オンリーで経営をしてしまうと安くて高品質の製品・サービスを提供するために少人数を安い給与で長時間働かせるという方向に向かい、ブラック企業のレッテルを貼られるケースが増えています。こういうスタンスでは結果的に接客における従業員の笑顔が消え、製造現場での意識低下による品質不良などがおきるリスクが高まります。

 負のスパイラルを起こさないためには、まず働く従業員が今の仕事を通じて世の中の役に立つという精神的に満足すること。同時に今の生活に困らない給与を受け取ることができ、安心して毎日を暮らすことができることの二つが不可欠ではないかと思います。まさに京セラの稲盛さんのおっしゃられる「従業員の物心両面の幸福を追求する」ことが大事です。

 この考えをいきなりTEDで話しても、転職の多い中国や欧米のクラスメイトには理解してもらいにくいと思ったので、中国古典を引用することにしました。学生の時、決して漢文が好きだったわけではないのですが、経営を学ぶ中で論語や老子といった人生とは何かという本を読む機会がありました。もちろんその時は、まさかこんな舞台が回ってくるとは思っていませんでした。

 まず孟子から「民為貴、社稷次之、君為軽」これは孟子が王に言った言葉で「国の中では民が最も貴く、神を祀る祭壇が次、君主は取るに足らない存在です」という意味になります。会社は社長一人では何もできません。日本にも武田信玄の「人は城、人は石垣、人は堀」という言葉があるくらい、人材は重要なものです。また、現在動いてくれていない人がいたとしても、その人の心を動かすことができれば人在(居てるだけ)から人材(使える人)、さらに人財(宝のような存在)に成長してくれるという内容でトークを終えました。果たしてクラスメイトの反応は・・・

(2)に続きます

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